この記事では、一部のMLBのキャッチャーが装着しているリストバンドについて解説します。
もともとリストバンドとは、テニスの選手が装着していてましたが、野球では、かつて阪神の新庄選手が赤いリストバンドを装着して注目を集め、おしゃれやアピールのために装着している以外は、あまり目にすることはありませんでした。
しかし、今シーズンのMLBでは、キャッチャーがリストバンドを装着しています。
なぜ、MLBのキャッチャーがリストバンドを装着しているのでしょう?
MLBのキャッチャーが装着するピッチコム
MLBのキャッチャーが装着しているリストバンドの正体は、キャッチャーとピッチャーがサイン交換をするための道具なのです。
野球中継では、キャッチャーがピッチャーにサインを送っているシーンをよく見ます。
キャッチャーが足をできるだけ閉じて、サインを股間の高さで出したり、横から見えないようにミットで隠したりしています。
しかし、MLBでは、2022年シーズンからバッテリー間のサイン交換を電子機器ですることが認められました。
キャッチャーがミットをつける方の手首のリストバンドには、「ピッチコム」と呼ばれるものがついていて、その「ピッチコム」にある9つのボタンを押すことで、ピッチャーの帽子に装着された受信機に音声で伝達されるようになっています。
その他、野手も3人までレシーバーを装着可能で、これから投げる球種が前もって知ることができます。
これにより、観客席にいるスパイや塁上のランナーにサインを盗まれることもなくなり、試合のスピードアップにもつながります。
アメリカの大学野球では、すでに「ゲームデーシグナルズ」というものが使われていて、コーチからの指示がピッチャーとキャッチャーがつけたリストバンドのディスプレーに表示されます。
MLBのキャッチャーが装着するピッチコムの3つの効果
MLBのキャッチャーのリストバンドには、3つの効果があると言えます。
試合進行のスピードアップ
現在、MLBが一番力を注いでいるのが、試合進行のスピードアップです。
観客が減少しているのは、試合の進行が遅いことが原因だと考え、ピッチャーが次の投球にうつるまでの時間に制限を設けようとしています。
メジャーでは、選手側の反対もあって導入されませんでしたが、マイナーでは、2015年から導入されていて、当初は、投球間隔が20秒に制限されていました。
しかし、投球間隔が20秒以内では効果が薄かったため、走者がいる時は18秒、いない時は14秒と制限を厳しくしたところ、約80%の試合が3時間以内に終了し、さらに2時間30分以内で終了する試合が4分の1もあり、試合のスピードアップに成功しました。
統計の上では、この制限が投手にとっても打者にとっても、有利になったり不利になったりすることがないと認められたため、2023年からはメジャーでも採用する見込みです。
最近のわたしも、間延びした長い試合を見ず、深夜のスポーツニュースで結果だけを見ることが増えましたから、ぜひ期待したいです。
キャッチャーの負担軽減
また、試合中にコーチや野手がピッチャーズマウンドに集まる回数も、ピッチャー交代以外は6回までに制限されました。
(延長戦になった時には、1イニングごとに1回増えます。)
ここで問題になるのが、キャッチャーの負担が増えてしまうということです。
この制限があると、ピンチの時にピッチャーのところに駆け寄って間を取らせることが、あまりできなくなってしまいます。
また、バッテリー同士の意志の疎通がしにくくなってしまいます。
最近のMLBでは、ピッチャーの分業制が進んでいるため、試合の進展によっては、何人ものピッチャーが投入されます。
そのピッチャー一人ひとりとサインの変更などの情報交換ができなくなり、もしサインに行き違いがあった場合でも、キャッチャーがマウンドに行って確認することができなくなってしまいます。
先発ピッチャーが崩れた時には、たくさんのリリーフピッチャーが送られ、キャッチャーは、それぞれのピッチャーの特徴を把握してリードする必要がありますから、特に負担が増えてしまいます。
このようなキャッチャーの負担を軽減しようと登場したのが「ピッチコム」です。
「ピッチコム」には、細かいバッターの攻め方はなく、内蔵されたビッグデータを基にして、キャッチャーが配球を決めていくわけですが、それでも些細なことでキャッチャーがマウンドに行く回数が減らせます。
テレビ中継でマウンドに野手が集まった時は、ちょっとだけと思って、チャンネルを変えちゃうこともありますよね。
MLBのキャッチャーのピッチコムで防ぐ不正
2017年には、ヒューストン・アストロズが、外野に設置されたカメラを利用して、キャッチャーのサインを盗んでいたことが発覚しました。
カメラの映像をベンチのモニターで見て、ゴミ箱を叩いたりなどしてバッターにサインの内容を知らせていたということを、当時アストロズに所属していて、現在はアスレチックスのファイアーズ投手が明かしました。
守備側も攻撃側も、勝つためには、相手のやろうとしていることを知りたいですし、そのために投手のクセや配球に注目したり、試合が終わったあとには、次の対戦に向けて研究もします。
しかし、その中から「キャッチャーのサインを盗む」という安きに流れる者が現れ、戒めても、罰しても、いなくなることはありません。
このリストバンドは、そのような問題にも有効となるでしょう。
MLBのキャッチャーのピッチコムで失うもの
しかし、実際に野球をしている選手からすると、このリストバンドは、野球のおもしろみを阻害してしまうという意見もあるようです。
キャッチャーのサインを見て、それにピッチャーが首を振ったり頷いたりして投球に入ったり、塁上のランナーが盗塁のチャンスをうかがうためにキャッチャーのサインを見ようとしたりすることもあるが、それが古くからの野球っぽいところ。
このような中、キャッチャーがサインを盗まれないようにしてきた工夫を、ピッチコムのような機械による通信で防ぐのは味気ないというものです。
iPadを持ったコーチが通信で選手にサインを送るようになったら、テレビゲームで野球をしているのと変わらなくなっちゃいますね。
まとめ
この記事では、MLBのキャッチャーが装着しているリストバンドについて解説しました。
MLBでは、キャッチャーとピッチャーのサイン交換を電子機器で行うことが認められました。
MLBのキャッチャーが装着している「ピッチコム」は、今まで相手選手に見えないように工夫してきたサインをピッチャーの帽子に装着された受信機に信号を送る送信機です。
これにより、観客動員の減少の原因とされる、長い投球間隔や、マウンド上でのピッチャーとキャッチャーの些細な情報交換の必要がなくなり、試合進行のスピードアップにつながります。
また、相手チームがカメラやモニターなどの電子機器を利用して、キャッチャーのサインを盗むと言った不正を防ぐことができます。
ただし、キャッチャーがサインを盗まれないように足を閉じたり、ピッチャーが首を振ったり、それを見た相手バッターやランナーがサインを予測したり、そういった人間くさい面白みが欠けるといった意見もあるようです。
これから野球がどのように進化していくのか、それとも、このまま良い意味での人間くさいスポーツとして発展していくのか、楽しみですね。
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