この記事では、プロ野球の移籍のルールについて解説します。
一般社会では、いま働いている会社よりも、給料が良かったり、休みが多かったり、条件の良い会社があれば、自由に転職できます。
プロ野球の世界では、どうなんでしょうか?
プロ野球の移籍のルール:大原則
プロ野球での移籍については、その前に大原則があります。
保留制度
プロ野球での移籍については、「保留制度」という原則があります。
これは、プロ野球の選手の移籍を禁止する制度のことです。
球団が保留権を持つ選手は、国内であろうと国外であろうと、他の球団に移籍するために契約の交渉をしたり練習に参加したりすることは禁止されています。
球団が保留権を行使すれば、現役中は自分の意志で移籍できないだけではなく、任意引退後も3年間は他の球団に入団できません。
自由に球団を変えたりできないなんて、ふつうの会社に勤めている私たちには、考えられないですね。
では、どうしても移籍できないのでしょうか?
プロ野球の移籍のルール:トレード
選手本人の意思とは関係なく、球団と球団がお互いに合意すれば、選手の交換をすることができます。
これを「トレード」と言い、4つの方法があります。
交換トレード
同じレベルの選手同士を球団と球団で交換することです。
1対1で交換できるのが理想ですが、交換しようとする選手と選手の間に実力の差がある場合は、片方の球団が複数の選手を出すことがあります。
どうしてもバランスが取れない場合は、金銭を代わりに加えることがあります。
金銭トレード
相手の球団に交換する選手がいなかった場合には、選手と金銭で交換することです。
また、球団が何かしらの理由でお金が必要なときに、選手を放出して、相手の球団から金銭を受け取る場合もあります。
三角トレード
3球団の間で行われるトレードのことです。
ふつうのトレードは、2球団間で行われます。
例えば、A球団がB球団の選手を、B球団がC球団の選手を、C球団がA球団の選手を、それぞれ獲得したい場合に行われます。
無償トレード
代わりの選手出すことも金銭のやりとりもなく、選手を譲渡することです。
ただし、新人選手については、トレードに下記の禁止事項があります。
- 獲得した翌シーズンの開幕までの、その新人選手の移籍(トレード)
- 移籍(トレード)を前提とした新人選手との契約
同じ会社の中の人事異動でもないのに、会社同士が話し合って勝手に勤め先を変えられてしまうって、わたしならとても耐えられないです。
ここまで、選手にはトレードでしか移籍ができないと説明してきましたが、一定の条件をクリアすれば選手自身の意思で移籍することができる制度があります。
その移籍制度が「FA制度」と「ポスティングシステム」です。
当初、FA制度を取り入れることで、年俸の高騰を招いてしまうことを危惧したプロ野球の球団側の強い反対がありました。
しかし、プロサッカーのJリーグが発足すると、Jリーグが選手に移籍の自由を認めていることから、サッカー人気に押されてしまうという危機感から、球団が渋々受け入れたものです。
プロ野球の移籍のルール:FA制度
FA制度には、国内FAと海外FAの2種類があります。
国内FA制度
国内のNPB球団に自分の意志で移籍できる制度です。
国内FA権を取得するためには、下記の条件をクリアする必要があります。
- 高校出身の選手:145日以上の1軍登録が8シーズン
- 大学・社会人出身の選手:145日以上の1軍登録が7シーズン
高卒で8年、大卒で7年は同じ会社で働かないといけないなんて、今どき時代遅れですね。
2度目以降の国内FA権(反復FA)を取得するための条件は下記になります。
- 前回の国内FA権を行使したのちに145日以上の1軍登録が4シーズン
そして、国内FA権を行使した選手を獲得した球団は、その選手がいた球団に「FA補償金」を支払う必要があります。
FA補償金は下記の通りに決められています。
ランク | Aランク | Bランク | Cランク | |
---|---|---|---|---|
初回FA | 人的補償なし | 年俸の80% | 年俸の60% | なし |
〃 | 人的補償あり | 年俸の50% | 年俸の40% | なし |
反復FA | 人的補償なし | 年俸の40% | 年俸の30% | なし |
〃 | 人的補償あり | 年俸の25% | 年俸の20% | なし |
獲得選手のランクは、その選手が所属していた球団での年俸額の順位によって決まります。(外国人選手は除く)
ランク | 年俸順位 |
---|---|
Aランク | 球団の年俸順位1~3位 |
Bランク | 球団の年俸順位4~10位 |
Cランク | 球団の年俸順位11位以下 |
長く活躍すれば、自分が行きたい球団に行く道が開けるんですね
海外FA制度
NPB所属以外の球団、主にMLBに選手自身の意志で移籍できる制度です。
海外FA権を取得するためには、下記の条件をクリアする必要があります。
- 1度目の海外FA権:145日以上の1軍登録が9シーズン
- 2度目以降の海外FA権:前回の海外FA権を行使したのちに145日以上の1軍登録が4シーズン
海外FA権を行使した選手を獲得した球団は、国内FA制度のように補償する必要はありません。
さすがに制度が違うMLBに、NPBの制度を押し付けられないんですね。
シーズン数の数え方
FA権を取得するための条件のシーズンは、一軍登録が145日以上あることが必要です。
ただし、1シーズンにカウントされる日数は145日が最大で、それ以上の一軍登録日数は別のシーズンに合算されません。
一軍登録日数が145日に届かない年があっても、複数年の一軍登録日数を合算して145日になれば1シーズンとして計算されます。
トレードなどで途中で球団が変わった場合や、クライマックスシリーズで一軍登録された場合も日数に合算されます。
また、下記のような場合、その期間は一軍登録日数に合算される救済措置もあります。
- 開幕2カード目での先発予定のため開幕時点で登録されない場合
- オールスター期間前後に登板間隔が10日以上となるために登録抹消される場合
- レギュラーシーズン終了からクライマックスシリーズのチーム初戦まで10日以上あるため自動的に登録抹消となる場合
故障者選手特例措置制度というのもあり、前年の一軍登録が145日以上ある選手が、2月1日から11月30日の間にグラウンド上での故障で一軍登録を抹消された場合、登録抹消を起点として二軍の公式戦に出場するまでの日数のうち、最大60日までが加算されます。
プロ野球のシーズンが2月1日から10月31日までの272日間ですから、1シーズンになるには、半分近くが必要ですね。
プロ野球の移籍のルール:ポスティングシステム
ポスティングとは、「入札」の事で、FA権を持たない選手が海外への移籍を希望した場合に、所属球団が行使します。
ポスティングシステムの導入の経緯は、1995年に野茂英雄が近鉄バファローズを退団しMLBへの移籍を果たしたことに始まります。
当時、任意引退した選手が他のNPB球団と契約交渉する際には、引退時に所属した球団の承諾を得る必要がありましたが、MLB球団には、その義務がなかったことを利用したもので、これにより、野茂は任意引退公示を受けることで、翌年にロサンゼルス・ドジャースと契約を結んでいます。
翌年にも、FA権を持たない伊良部がニューヨーク・ヤンキースとの契約を熱望し、サンディエゴ・パドレスも巻き込む騒動を起こしました。
これらの騒動をきっかけに、他のMLB球団から選手の獲得機会の均等を求める声が上がり、1998年に「日米間選手契約に関する協定」が調印されポスティングシステムが成立しました。
ポスティングシステムの流れ
ポスティングシステムの場合、下記のような流れで行われます。
- 海外FA権を持たない選手が、海外球団への移籍を希望し、球団が認める
- 球団がNPBコミッショナーを通じて、MLBコミッショナーに契約可能選手であることを通達
- MLBコミッショナーがMLB各球団に通達内容を告知(ポスティング)
- 興味がある球団は、通達から40業務日以内に入札を提出(金銭による入札)
- 最高入札額を提示したMLB球団が、NPB球団との交渉権を取得
- MLB球団と選手が契約した場合、入札金額はNPB球団に支払われる
ポスティングシステムでMLBへ移籍した選手
ポスティングシステムを利用して、イチロー選手や松坂投手、大谷選手がMLBに移籍しています。
もちろん、選手自身も、球団にとってそれ相応の実績がなければ、ポスティングシステムを希望しても受け入れられないことは、想像に難くないです。
海外FA権では、少なくとも9年待たないといけませんが、これなら若いうちにMLBに挑戦することができますね。
プロ野球の移籍のルール:自由契約
自由契約とは、球団との契約が解除になった選手のことで、元いた球団の保有権はないので、あらゆる球団と契約交渉ができます。
シーズン中に自由契約にする場合、「ウェイバー公示」して、球団保有権の権利放棄の手続きが必要になります。
自由契約選手の中から復活を遂げた選手もいますが、球団に見限られた選手でもあるので、他の球団に獲得してもらう事自体が難しくなります。
ただ、抜け穴的に海外移籍も可能で、横浜ベイスターズを自由契約になった大家友和投手が、これを利用してMLBに移籍しています。
プロ野球の移籍のルール:現役ドラフト
出場機会の少ない中堅選手を移籍させて、その選手の飼い殺し状態を解消するために設けられた制度です。
MLBの「Rule5ドラフト」を参考にしていて、最高で2巡目まで行われます。
現役ドラフトの指名方式
1巡目
- 各球団は、シーズン終了後に2名以上の選手名簿を提出します。
- 各球団が指名したい選手1名を投票します。
- 最も多い票を獲得した選手の球団が最初の指名権を獲得します。(得票が最多の球団が複数の場合はウェイバー方式となります。)
- 最初に指名する球団が指名した選手の球団が、次に選手を指名します。
- 以降、指名された選手の球団が次の指名を行います。
ウェイバー方式とは:戦力の均衡化を目的に、直前のシーズンが最下位のチームから成績が低い順に指名を行うことです。
すでに指名された選手とその選手が所属する球団の選手を指名できなくなるので、必然的に指名が11番目になった球団は、12番目の球団(残った球団)と選手を交換することになります。
2巡目
ここからは自由参加となり、球団は参加を棄権することができます。
また、指名の順番は1巡目で最後になった球団から指名します。
1巡目と同じように、すでに指名された選手とその選手が所属する球団の選手を指名できず、2巡目を棄権した球団の選手も指名できません。
下記の選手は現役ドラフトの対象外です。
- 外国人選手
- 複数年契約選手
- 来季の年俸が5000万円以上の選手(1名に限り5000万以上1億円未満可)
- FA資格がある選手
- FA権を行使したことがある選手
- 前年のシーズン終了後に獲得した選手
- 当年のシーズン終了後に育成から支配下登録された選手
- 育成選手
プロ野球の移籍のルール:まとめ
この記事では、プロ野球の移籍のルールを解説しました。
基本的に、プロ野球球団には保留権があって、選手は自分の意志で自由に他の球団に移籍できません。
移籍するには、トレードがありますが、自分の意志とは関係ないところで球団が決めるので、行きたい球団に行ける訳でもなければ、いつ移籍になるかも分かりません。
そんな時に、Jリーグが発足して、野球選手を目指す子どもが減って、結果的にプロ野球ファンが減るという危機感を持った各球団が、しぶしぶFA制度を認めました。
現在では、ポスティングシステムもあって、実力さえあればMLBにさえも挑戦できるようになっています。
かつては球団に強い権限があって、選手の意志はないがしろにされていましたが、実力さえ備えれば自分の意志が叶うようになったことで、夢を抱いた子ども達がプロ野球選手を目指すようになり、日本の野球界がさらに発展してくれるといいですね。
コメント